
スイミングファーステストにおけるEN1は
持久力を高めるための本当に適切なトレーニングでしょうか。
EN1のトレーニング方法を再検討してみます。
目次
スイミングファーステストにおけるEN1の内容
スイミングファーステストに記載されている
EN1の内容を復習してみます。
EN1の効果
1次効果
・心臓からの一回拍出量,心拍出量の増加
・血液容量の増加
・肺の毛細血管の増加
・遅筋線維のミオグロビンとミトコンドリア数の増加
・遅筋線維から乳酸を除去する効率の向上 など
2次効果
・速筋や中間筋へのグリコーゲンの補充 など
EN1の1本あたりの距離
・200m以上あるいは,2分以上を推奨
EN1のセットの長さ
・600m以上もしくは8分以上
・2000m以上もしくは15分以上を推奨
EN1のレスト時間
・5〜10秒(短距離を反復する場合)
・10〜20秒(中距離を反復する場合)
・20〜60秒(長距離を反復する場合)
EN1のトレーニングスピード
・心拍数:120〜150回/分
・心拍数:最大心拍数より毎分30〜60回低い値
・血中乳酸濃度:1〜3mmol/L
・息苦しくない程度
EN1のトレーニング方法を再検討する
EN1の運動強度について
EN1の目的の一つは一回拍出量の増加です。
そして一回拍出量は持久力の指標の一つである
最大酸素摂取量に関わる要素でした。
一回拍出量が最も高まる運動強度
これまで一回拍出量が最大になる運動強度は
40%VO2max付近 (心拍数にして約110回/分程度の運動強度)
と考えられてきました1,2)。
その一方で,運動強度の増加に伴い,
一回拍出量は増加し続けるとした報告もあります3,4,5)。
このように一回拍出量が最大になる運動強度は諸説ありますが,
とりあえず心拍数110回/分付近の運動強度で
一回拍出量はもっとも増加すると仮定して EN1の強度を考えてみます。
スイミングファーステストにおけるEN1の運動強度
スイミングファーステストではEN1の心拍数を120〜150回/分,
もしくは最大心拍数より毎分30〜60回低い値としています。
最大心拍数は「220-年齢」で求まりますので,
30歳の人ならEN1実施時の心拍数は毎分130〜160回/分となります。
いずれの心拍数についても,
一回拍出量が最も高まる可能性のある心拍数110回/分付近より高い値となります。
ミトコンドリア数の増加がみられる運動強度
次に 遅筋線維のミトコンドリア数の増加,
遅筋線維の乳酸を除去する能力の向上が EN1の効果として,
スイミングファーステストでは述べられています。
以前の記事でも記載しましたが,
ミトコンドリア数の増加には少なくとも50%VO2max以上の運動強度が必要です6)。
まとめ
EN1の運動強度について
私の考えとしては,
スイミングファーステストのEN1に記載されている一次効果のうち
「一回拍出量の増加」と「ミトコンドリア数の増加」を
最も効率良く高めるためのトレーニングはないと思います。
一回拍出量の増加を狙うのであれば,
スイミングファーステストで推奨する運動強度よりも低い
40%VO2max付近の運動強度で行い,
ミトコンドリア数の増加などを狙うのであれば
50%VO2max以上の運動強度で行う必要があります。
従って,ミトコンドリア数の増加や乳酸除去効率の増加を狙うのであれば
スイミングファーステストにおけるEN2やEN3が該当するトレーニングでしょう。
EN1の距離とレストについて
もし,EN1を40%VO2max付近の強度で行うのであれば,
運動強度としてはかなり低いものとなります。
従って,レストが僅かであっても運動は継続できますので,
レストは短くていいはずです。
スイミングファーステストが述べる20〜60秒のレストは長すぎる印象です。
以上です。
EN1のメニューを作成する上で参考になりましたら幸いです。
参考文献
1) Spina RJ et al., Differences in cardiovascular adaptations to endurance exercise training between older men and women. J Appl Physiol. Aug;75(2):849-55. 1993
2) Proctor DN et al., Influence of age and gender on cardiac output-VO2 relationships during submaximal cycle ergometry. J Appl Physiol. Feb;84(2):599-605. 1998
3) Krip B et al., Effect of alterations in blood volume on cardiac function during maximal exercise. Med Sci Sports Exerc. Nov;29(11):1469-76. 1997
4) Gledhill N et al., Endurance athletes’ stroke volume does not plateau: major advantage is diastolic function. Med Sci Sports Exerc. Sep;26(9):1116-21. 1994
5) Zhou B et al., Stroke volume does not plateau during graded exercise in elite male distance runners. Med Sci Sports Exerc. Nov;33(11):1849-54. 2001
6) Dudley GA et al., Influence of exercise intensity and duration on biochemical adaptations in skeletal muscle. J Appl Physiol, 53 : 844-850, 1982