
スイミングファーステストのEN2の内容を参考に
持久力トレーニングを考えていきます。
乳酸閾値 (LT) と血中乳酸定常 (MLSS) について紹介します。
目次
スイミングファーステストにおけるEN2の内容
EN2の効果
1次効果
・筋肉と血液から乳酸を除去する能力が向上する
・筋線維周辺の毛細血管の数が増える
・筋線維内のミオグロビンとミトコンドリアの数が増える 2次効果
・心臓の1回拍出量と心拍出量の増加
・肺の毛細血管の増加 など
EN2の1本あたりの距離
200m以上あるいは,2分以上を推奨
EN2のセットの長さ
・500m以上もしくは6分以上
・2000〜4000m以上もしくは20〜45分以上を推奨
EN2のレスト時間
・5〜10秒(短距離を反復する場合)
・10〜20秒(中距離を反復する場合)
・20〜60秒(長距離を反復する場合)
EN2のトレーニングスピード
・心拍数:最大心拍数の毎分10〜20回低い値
・血中乳酸濃度:3〜5mmol/L
EN2の運動強度について
EN2はスレッショルド持久トレーニングとも呼ばれている通り,
乳酸閾値付近でのトレーニングを指しています。
しかし,スイミングファーステストのトレーニングスピードをみると
幅があり随分高強度の設定だと思います。
そもそもEN2のスレッショルド(閾値)とは何を指すのでしょうか。
乳酸閾値と血中乳酸定常について
EN2のスレッショルドとは乳酸閾値を指します。
乳酸閾値は血中の乳酸濃度が高まり始める運動強度です。
一般に,乳酸閾値付近の運動強度は,
運動の種類や個人間でも幅はありますが約50〜65%VO2max程度です1)。
心拍数に換算すると,最大心拍数の65〜75%くらいでしょう。
(※ %VO2maxと心拍数の関係については諸説あるので,あくまで目安です)。
また,長時間運動を持続しても乳酸が増加しないぎりぎりの強度は
最大血中乳酸定常 (MLSS) と呼ばれ,
MLSSに相当する強度は70〜80%VO2maxであり,
心拍数としては最大心拍数の80〜90%程度になります1)。
ちなみに,MLSS実施時の血中乳酸濃度は4mmol/mL程度なので,
実はEN2実施時の運動強度は
乳酸閾値ではなく,MLSS時の運動を指しているように感じます。
乳酸閾値とMLSSを使ったトレーニング分類について
乳酸閾値とMLSSはトレーニング強度を設定する上で重要な指標となっています。
例えば2013年のArgyris Gらのレビューでは
トレーニングカテゴリーと運動強度を乳酸閾値とMLSSを使って
以下のように分類して紹介しています2)。
Aerobic training
1. Moderate exercise intensity:乳酸閾値以下の運動強度
Training at the lactate threshold
2. Heavy exercise intensity:乳酸閾値以上〜MLSS以下の運動強度
Overload aerobic training
3. Very heavy exercise intensity:MLSS以上〜Critical velocity以下
4. Sever exercise intensity:Critical velocity以上〜最大酸素摂取量の運動強度以下
Anaerobic training
5. Extreme exercise intensity:最大酸素摂取量の運動強度以上
この分類では,乳酸閾値,MLSS,そしてCritical Velocityという概念を用いて
トレーニングを分類しています。
他の文献でも乳酸閾値とMLSSをトレーニング強度の分類として用いており,
トレーニングを行う上で重要な指標であることが分かります3)。
乳酸閾値を高めるトレーニング
乳酸が蓄積し始める運動強度 (乳酸閾値),
すなわち疲労物質が蓄積し始める運動強度が高いほど,
持久力が高いと考えられます。
乳酸閾値の強度や,MLSS付近の強度のトレーニングを
40週間,週3回を行うことで,
乳酸閾値の強度が高まることが報告されており,
乳酸閾値付近のトレーニングは持久力改善に有用であることが明らかになっています4)。
その一方で,上記のトレーニングでは最大酸素摂取量は増加していないため
最大酸素摂取量の増加には別のトレーニング (EN3など) が必要となるでしょう。
トレーニングの継続時間と休憩時間
トレーニングの強度がMLSS以下であれば,
血中乳酸濃度はそれ以上増加せず,
疲労物質も蓄積されにくいはずなので,
休憩時間やセットレストがなくても運動は継続できるはずです。
従って,EN2トレーニング実施時のレストは少なくてもいいと考えてます。
以上,スイミングファーステストのEN2を参考資料として
持久力の指標である乳酸閾値を高めるトレーニングについて考えてみました。
参考文献
1) W.E.ギャレット,スポーツ運動科学-バイオメカニクスと生理学-,2010
2) Argyris G et al., Metabolic responses at various intensities relative to critical swimming velocity. J Strength Cond Res. 27 (6) : 1731-1741, 2013.
3) Seiler S, What is best practice for training intensity and duration distribution in endurance athletes? Int J Sports Physiol Perform. 5 : 276-291, 2005.
4) Denis C et al., Effect of 40 weeks of endurance training on the anaerobic threshold. Int J Sports Med.3(4):208-14, 1982