水泳肩を予防する②:動的安定化に関わる筋肉〜棘上筋〜

今回は肩関節の安定化に活躍する肩関節周囲筋の

筋力トレーニングについて考えていきます。

まず肩関節の安定性に寄与する腱板について,

そのあとに今回は棘上筋のトレーニングについてまとめました。

肩関節不安定性を改善するための

肩関節周囲筋に対するトレーニングは

バーベルを上げたり懸垂といったトレーニングとは少し異なるようです。

 

肩関節の動的安定性に関わる筋肉

水泳肩の予防のためには動的安定性が必要でした。

そして,動的安定性を得るためには

回旋筋腱板(ローテーター・カフ),三角筋,上腕二頭筋長頭

といった筋肉が適切に働くことが求められます。

また,ローテーター・カフは

「棘上筋,棘下筋,小円筋,肩甲下筋」の4つの筋を合わせたものを指しており,

肩関節の深部で肩関節を覆うように存在しています。

 

これらの筋肉(特にローテーター・カフ)は

肩甲骨に上腕骨を引きつける働きがあるため

これらの筋肉が働かないと肩関節がぐらぐら(不安定)になってしまいます。

かといって,持続的にこれらの筋肉が収縮すると肩が動きません。

つまり,動的安定性に関わる筋肉は

適切なタイミングで適切な筋力の発揮が求められる筋肉となります。

 

ローテーター・カフが働かないとどうなるか

まず復習です。

水泳肩は以下のような疾患を含む病態でした。

(参考:水泳肩(スイマーズショルダー)を予防する

 

〜水泳肩の病態〜

1.棘上筋腱,上腕二頭筋長頭腱と肩峰・烏口肩峰靱帯とのインピンジメント

2.棘下筋腱の肩峰下でのインピンジメント

3.肩甲上腕関節の不安定症

4.上方肩関節唇損傷 (SLAP損傷)

5.上腕二頭筋長頭炎

 

この病態の中に重要な言葉が出てきます。

「インピンジメント」です。

 

肩関節におけるインピンジメントとは

インピンジメント (impingement) は,日本語で「衝突」を指します。

 

ローテーター・カフは肩甲骨を上腕骨に引き寄せる働きをします。

もしローテーター・カフが十分に機能しない,もしくは弱化すると

上腕骨を動かしている最中に上腕骨が肩甲骨に引き寄せられなくなり

上腕骨が肩甲骨に衝突します。

これがインピンジメントと呼ばれる病態です。

 

水泳肩の病態のうち1と2は

棘上筋,棘下筋,上腕二頭筋長頭などが

肩甲骨と上腕骨の間に挟み込まれてしまっていることを指しています。

 

インピンジメントを予防する:ローテーター・カフを強化する意義

ローテーター・カフを強化する意義について

過去の研究を参考に考えていきます。

 

肩関節でインピンジメントが生じている患者の一部は,

ローテーター・カフの筋力低下や

外旋筋・内旋筋の筋力不均衡がみられると報告されています1,2)

また,この外旋筋・内旋筋の筋力不均衡について,

インピンジメントが生じていない人では

肩甲骨面上の外転0°,90°いずれの姿勢でも

「外旋筋の筋力/内旋筋の筋力」が

60〜70%であることが報告されています3,4,5)

この割合から外れている場合は,

筋力不均衡であるということが出来ると考えられます。

 

従って,ローテーター・カフをトレーニングする意義としては

外旋筋,内旋筋の弱化を防ぎ,筋力の割合を適正に保つことで

インピンジメントを予防する,ということになります。

 

また,ただ筋力をつけるだけでなく

ストローク時にローテーター・カフが適切に動員され,

上腕骨が肩甲骨に引きつけられている状況となるようなトレーニングも必要になりますが

まずは筋力強化について検討していきたいと思います。

 

腱板(ローテーター・カフ)に対するトレーニングの詳細

ローテーター・カフは

「棘上筋,棘下筋,小円筋,肩甲下筋」から構成されていました。

このうち,まずは棘上筋のトレーニング方法について検討します。

 

棘上筋のトレーニング

トレーニングの概略

棘上筋のトレーニングで最も有名なのは

1.「full can exercise」

2.「empty can exercise」

3.「prone horizontal abduction」

と呼ばれる運動です。

 

フルカン エクササイズは缶が満たされる姿勢の運動なので

親指を上にして肩甲骨面で肩関節を外転します。

エンプティーカン エクササイズは缶が空になる姿勢の運動なので

親指を下にして肩甲骨面で肩関節を外転します。

 

なお,肩甲骨面とは肩甲骨の傾斜に沿った面のことです。

実際には前額面に対して30°前に腕を出した面での運動になります。

(体の横のから30°腕を前に出した姿勢です)

プローンホライザゾンタルアブダクションは

うつぶせになって腕を天井に向かってあげる運動です。

詳細は下の写真をご覧下さい。

左から順に「full can exercise」,「empty can exercise」,

「prone horizontal abduction exercise」となっています。

(写真の出典は参考文献6)

 

fullcan.001

 

これらの運動のうち「empty can exercise」は

インピンジメントの危険性もあるためあまり推奨されていないようです7)

また,「full can exercise」か「prone horizontal abduction exercise」のどちらがいいのか

これも一定の結論は得られていないようです。

ある文献では「full can exercise」は三角筋の動員が少なく,

棘上筋のトレーニングに効果的であると述べており6)

ある文献では「prone horizontal abduction exercise」がインピンジメントが少なく

棘上筋のトレーニングには有効であると述べています8)

 

痛みが生じなければ

どちらの運動でもいいのかもしれません。

私は簡便な「full can exercise」をよく行っていました。

 

回数,頻度

一般的に15〜20回を3セット行うことが推奨されています7)

 

負荷方法

主にセラバンドやダンベルなどが用いられます。

ダンベルの場合は3kg以下が推奨されています。

また,ダンベルよりセラバンドの方が

運動時の肩関節の筋群の活動が

通常の肩関節外転時の筋活動と同じであるとする報告もあるため

セラバンドを用いた方がよさそうです9)

 

運動速度

full can exerciseでは

肩関節外転60°以下で棘上筋の活動が大きく

かつ,運動速度が速いほうが

棘上筋の活動は大きいようです10)

従って,速い速度での運動の方が

効果的に棘上筋を鍛えることが出来るかもしれませんが

運動速度が速すぎると肩甲上腕関節以外の関節の代償が生じやすいため

まずゆっくりとした運動速度で運動方法を十分に学習する必要はあるでしょう。

 

まとめ

今回は特に棘上筋のトレーニング方法についてまとめました。

棘上筋のトレーニングは

「full can exercise」もしくは「prone horizontal abduction exercise」が推奨されています。

セラバンドを用いて15〜20回を3セット行います。

運動速度は速いほうがいいかもしれませんが

運動方法に注意します。

 

一つのトレーニングを切り出しても

これだけの留意点があります。

さらに,トレーニング方法についても

まだ完全な結論が得られていないことも分かりました。

今後の研究によっては,

さらにトレーニング方法は変わってくるかもしれません。

 

次回はローテーター・カフを構成する筋のうち

棘下筋,小円筋のトレーニングを検討していきます。

 

 参考文献

1) Erol O, Ozçakar L, Celiker R. Shoulder rotator strength in patients with stage I-II subacromial impingement: relationship to pain, disability, and quality of life. J Shoulder Elbow Surg 2008;17:893–7.

2) Reddy AS, Mohr KJ, Pink MM, et al. Electromyographic analysis of the deltoid and rotator cuff muscles in persons with subacromial impingement. J Shoulder Elbow Surg 2000;9:519–23.

3) Ellenbecker TS, Davies GJ. The application of isokinetics in testing and rehabilitation of the shoulder complex. J Athl Train 2000;35:338–50.

4) Ivey FM Jr, Calhoun JH, Rusche K, et al. Isokinetic testing of shoulder strength: normal values. Arch Phys Med Rehabil 1985;66:384–6 

5) Ackland DC, Pak P, Richardson M, et al. Moment arms of the muscles crossing the anatomical shoulder. J Anat 2008;213:383–90.

6)Michael M. R. et al. Electromyographic Analysis of the Supraspinatus and Deltoid Muscles During 3 Common Rehabilitation Exercises.Journal of Athletic Training 2007;42(4):464–469

7)Fleck SJ, Kraemer WJ. Designing resistance training programs. Champaign, Illinois, USA: Human Kinetics Publishers, 1987.

8)Rafael F.E. et al.Electromyographic Analysis of the Rotator Cuff and Deltoid Musculature During Common Shoulder External Rotation Exercises: Sports Med 2009; 39 (8): 663-685

9)Andersen LL. et al., Muscle activation and perceived loading during rehabilitation exercises: comparison of dumbbells and elastic resistance. Phys Ther 2010: 90: 538–549.

10)Scott W. A. et al., Electromyographic analysis of deltoid and rotator cuff function under varying loads and speeds. J Shoulder Elbow Surg 2000;9:47-58


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