
今回は一流選手のペース配分を紹介します。
2008年北京五輪、男子50~200m Frの結果について考察した論文がありました1)。
その内容を抜粋していきます。
一流選手のペース配分は
自分のレースプランを組み立てる上で参考になるはずです。
目次
レースでペース配分を模索することの意義
実際のレースでは、
前半を抑えてはいった方がいい人もいますし
前半から突っ込んでいかないとタイムが出ない人もいます。
従って、自分にあったペース配分を模索することは
もはや必須事項です。
また、一流選手と自分のペース配分を比較することで
自分の足りない能力(例えばレース序盤から最高速を出す能力)が
明確になります。
自分の弱点を知ることで
弱点を補強するためのトレーニングプランも立てれるため
より効率のいいトレーニングが行えるでしょう。
それでは一流選手のレース結果と分析をみていきます。
北京五輪、男子50m Frの結果と分析
まず1〜3位までの選手名です。
1位:Cesar Cielo
2位:Eamon Leveaux
3位:Alain Bernard
これらの選手の予選から決勝までの
リアクションタイム (RT),
泳速,合計タイムを記載します。
予選の結果
Cielo
RT:0.67秒,泳速:2.33 m/s,タイム:21.47秒
Leveaux
RT:0.75秒,泳速:2.33 m/s,タイム:21.46秒
Bernard
RT:0.74秒,泳速:2.30 m/s,タイム:21.78秒
準決勝の結果
Cielo
RT:0.67秒,泳速:2.34 m/s,タイム:21.34秒
Leveaux
RT:0.79秒,泳速:2.30 m/s,タイム:21.76秒
Bernard
RT:0.75秒,泳速:2.32 m/s,タイム:21.54秒
決勝の結果
Cielo
RT:0.68秒,泳速:2.35 m/s,タイム:21.30秒
Leveaux
RT:0.75秒,泳速:2.33 m/s,タイム:21.45秒
Bernard
RT:0.73秒,泳速:2.33 m/s,タイム:21.49秒
結果の分析
論文ではリアクションタイムに注目しています。
リアクションタイムと合計タイムの相関を取った結果,
相関係数が0.7と高い相関がありました。
つまり,リアクションタイムが速い人ほど,
合計タイムが速いということです。
また,いかに最高速を高め,
その最高速を維持するかも重要だと述べています。
リアクションタイム,
最高速度の向上,
最高速度の維持,
当たり前かもしれませんが
これらの能力は50m Frには必須といえそうです。
北京五輪、男子100m Frの結果と分析
1〜3位までの選手名です。
1位:Alain Bernard
2位:Eamon Sullivan
3位:Jason Lezak
3位:Cesar Cielo
これらの選手の予選から決勝までの
リアクションタイム (RT),
泳速,合計タイム (前半+後半) を記載します。
予選の結果
Bernard
RT:0.74秒,泳速:2.09 m/s,タイム:47.87秒
Sullivan
RT:0.66秒,泳速:2.10 m/s,タイム:47.80秒
Lezak
RT:0.73秒,泳速:2.07 m/s,タイム:48.33秒
Cielo
RT:0.71秒,泳速:2.08 m/s,タイム:48.16秒
準決勝の結果
Bernard
RT:0.76秒,泳速:2.12 m/s,タイム:47.20秒 (22.48+24.72)
Sullivan
RT:0.65秒,泳速:2.13 m/s,タイム:47.05秒 (22.44+24.61)
Lezak
RT:0.73秒,泳速:2.09 m/s,タイム:47.98秒 (22.81+25.17)
Cielo
RT:0.72秒,泳速:2.09 m/s,タイム:48.07秒 (22.62+25.45)
決勝の結果
Bernard
RT:0.74秒,泳速:2.12 m/s,タイム:47.21秒 (22.53+24.68)
Sullivan
RT:0.67秒,泳速:2.12 m/s,タイム:47.32秒 (22.48+24.84)
Lezak
RT:0.70秒,泳速:2.10 m/s,タイム:47.67秒 (22.84+24.83)
Cielo
RT:0.68秒,泳速:2.10 m/s,タイム:47.67秒 (22.74+24.93)
結果の分析
論文では50m Frと同様に
リアクションタイムと合計タイムの相関をとっています。
その結果,相関係数は0.23であり
両者の関連性は低いことが分かりました。
つまり,リアクションタイムが速いからといって
合計タイムが速いとは限らないということです。
論文では考察されていませんでしたが
ラップタイムについてみてみると
前半よりも後半の方が2.0〜2.5秒くらい遅いようです。
特に決勝では後半50mで1.99〜2.36秒タイムが遅くなっています。
Cieloを例にとると
準決勝で前半は22.62ではいり
後半は25.45秒と2.83秒のタイム低下で合計48.07秒です。
決勝では前半を抑えて22.74ではいり
後半は24.93秒と2.19秒のタイム低下で合計47.67秒です。
決勝まで力を残していたことは十分に考えられますが
100m Frにおける前半と後半のラップタイムの差は
2秒台前半に抑えることを最初のプランとしてみてもいいでしょう。
そして,2秒台前半を足がかりに
自分のレースプランを組み立てていくと効率がいいかもしれません。
100mのレースプランについては
また別の機会に他の論文の結果も踏まえて考えていきたいと思います。
北京五輪、男子200m Frの結果と分析
1〜3位までの選手名です。
1位:Michael Phelps
2位:Tae-Hwan Park
3位:Peter Vanderkaay
これらの選手の予選から決勝までの
リアクションタイム (RT),
泳速,合計タイム,ラップタイムを記載します。
予選の結果
Phelps
RT:0.73秒,泳速:1.88 m/s,タイム:1:46.18
Park
RT:0.67秒,泳速:1.88 m/s,タイム:1:46.73
Vanderkaay
RT:0.73秒,泳速:1.86 m/s,タイム:1:47.39
準決勝の結果
Phelps
RT:0.74秒,泳速:1.88 m/s,タイム:1:46.28
Park
RT:0.68秒,泳速:1.89 m/s,タイム:1:45.99
Vanderkaay
RT:0.75秒,泳速:1.89 m/s,タイム:1:45.76
決勝の結果
Phelps
RT:0.73秒,泳速:1.94 m/s,タイム:1:42.96
(24.31 – 25.98 – 26.55 – 26.12)
Park
RT:0.67秒,泳速:1.93 m/s,タイム:1:44.85
(24.91 – 26.63 – 27.14 – 26.17)
Vanderkaay
RT:0.75秒,泳速:1.90 m/s,タイム:1:45.14
(24.97 – 26.70 – 26.94 – 26.53)
結果の分析
リアクションタイムと合計タイムの相関はありません。
想像はつきますが
リアクションタイムは結果に影響しないということです。
また,100〜150mのラップタイム,50〜150mのラップタイムと
合計タイムに強い相関を認めているようです。
つまり,
100〜150mのラップタイム,50〜150mのラップタイムが速い人ほど
合計タイムが速いということになります。
従って,200m Frでは
50〜150mでのタイム低下をいかに抑えるかが
一つのポイントになりそうです。
おわりに
今回は北京五輪の結果を分析した論文から
50〜200m Frのレースプランを考えてみました。
一流選手のレースプランを参考にして
自分自身のレースプランを組み立てていくといいと思います。
また,レースプランを考察した論文は他にもありますので
今後も少しずつ紹介していきたいと思います。
参考文献
1.Kucia-Czyszczoń K. et al., Analyses of the dynamics of changes between individual men’s events in front crawl during the XIX Olympic Games in Beijing 2008. Acta Bioeng Biomech. 2014;16(1):19-27.